ボディソニックを使って音楽を聴いたとき、痛みの感じ方はどのように変わるのか

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音楽を聴くことは、人の体とこころにとても良い影響を与えます。リハビリなどの医療現場でも、「音楽療法」として効果が認められています。

患者は精神的、肉体的に強いストレスを感じているときに、音楽を聴くことでこころが軽くなったり、痛みが和らいだりします。音楽と痛みについて研究をした「音楽の聴き方が整体に及ぼす影響(第2報)〜ボディソニック装置による音楽鑑賞が痛覚閾値に及ぼす影響〜」という論文がありますのでご紹介します。

ボディソニック=体感音響装置

ボディソニックは、音楽を振動によって「体で聴く」ことができるようにする装置です。

ボディソニックで音楽を聴くと、ツボをおさえるように心地よい振動(ボーンコンダクション)が体を刺激します。耳だけで聴く音楽よりも、より音楽が体に染み込んでいくような、音楽に包み込まれるような、臨場感溢れる音楽になります。

痛みのメカニズムと痛みのコントロール

人は刺激(痛みのもと)を受けたとき、「刺激があった」という連絡が脳に伝わってから「痛い」と感じます。刺激を受けただけでは「痛い」とは感じません。刺激の受け取り方や脳へ伝わり方で、どのくらい「痛い」と感じるか変わります。疼痛計で測定することで痛覚閾値がわかります。痛覚閾値(痛みの許容値)が高いと痛みを感じにくくなり、痛みのレベルが下がります。

痛みの感じ方は個人差が大きいことと、そのときの体の状態やこころの状態によっても変わります。人は刺激を受けると、自分の体内で内因性疼痛抑制物質(痛みを抑える役割をする物質)を分泌することがわかっています。この物質の分泌も痛みにとても関係しています。

研究の方法

①19~21歳の健康的な女性30名に、ボディソニックに座って音楽を聴いてもらいます。

②音楽を聴く前と聴いた後に、指尖部皮膚温(指先の温度)と疼痛計(痛みをどれくらい感じるか)を計測します。

③最後にMAS検査(精神的、肉体的にどのくらい不安があるか)とアンケートに答えてもらいます。

研究の結果

指尖部皮膚温(指先の温度)

26名(87%)の指先の表面皮膚温度が0.2〜1.7℃上がり、反対に4名が下がりました。皮膚温は血の流れが良くなったことで温度が上がったと考えられます。交感神経よりも副交感神経が優位になったことで血管が広がり、血が指先に流れやすくなったからです。

指先の皮膚温は心理的なストレスに反応することが研究でわかっています。例えば、悩み、不安、憂鬱な気持ちだと皮膚温は下がって、興奮したり、リラックスしていると皮膚温は上がるとされています。この温度の変化は脳の視床下部で調整されます。

ボディソニックによる音響の刺激が、視床下部や自律神経系(交感神経と副交感神経を調整する神経)に反応して、リラックスできたことで指先の皮膚温が上がったと言えます。脳や神経系の周囲が刺激されたことで、内因性疼痛抑制物質(=オピオイドペプチド)が分泌され、指先の皮膚温を上げたと推測できます。

痛覚閾値

痛みは個人差が大きく、客観的に測ることは難しいです。刺激に対しての感受性を測る方法として、一番客観的なのが「刺激痛覚温度閾値測定器(痛覚計)」です。

その結果、30名中23名(76.7%)が音楽を聴いた後に痛覚閾値が上がった=痛みに鈍感になったと答えました。痛覚閾値の変化は、刺激によって内因性疼痛抑制物質が分泌されたからだと考えられます。

内因性疼痛抑制物質は副作用がないので、とても注目されています。特に注目されているのは、「脳内麻薬物質」と呼ばれているエンドルフィンという脳内ホルモンです。

このエンドルフィンは運動したときの「ナチュラルハイ」状態を作りだすホルモンで、脳内だけではなく消化管や胎盤などにも存在します。エンドルフィンが分泌されると、快感や満足感が得られます。また痛みを抑える、血圧を安定させる、呼吸を落ち着かせるなどのはたらきもあります。

ボディソニックを使った音楽体験で痛覚閾値が上がったということは、エンドルフィンが体内で分泌されたと推測できます。これは、鍼や電気でツボや神経を刺激したときにエンドルフィンが増加するのと、同じメカニズムだと考えられるのではないでしょうか。

今後の研究の課題

ボディソニックを使って音楽を聴くことで、ストレスや感情を司る視床下部やその周辺の脳が刺激されて内因性疼痛抑制システムが作動したと推測できます。しかし、今回の研究で痛覚閾値が上がった理由が、内因性疼痛抑制物質が増えたからということは実際にはわかりません。それを確かめるためには、血液検査をしないとわからないからです。血液検査は採血をしなければならなかったので、痛覚閾値を測るときに痛みを与えることができなかったからです。

音楽とホルモンの関係を研究した谷岡は、手術前の患者に局所麻酔をして音楽が不安をどのくらい消してくれるかどうかを調べました。ストレスと落ち着かせるホルモンを客観的に測定することができたので、参考になります。

20分間音楽を聴いて、直後に痛覚閾値を測りましたが、痛覚閾値が上がった状態はどのくらい続くのか、痛みが抑制された状態はどのくらい続くのかを測定しなかったことは今後の課題として残ります。今回痛覚閾値が上がらなかった7名についても、その原因が個体差によるものなのか、心理的なことによるものなのか、特定することができませんでした。

アンケートと一緒に行ったMAS検査の得点は、特に不安が強いという結果でもなく、アンケートでも気持ちよかった、リラックスできた、音楽が染み込んでくるよう…と答えていて、ネガティブな反応はありませんでした。

ボディソソニック×エンドルフィンの効果

エンドルフィンの研究ではB.Almayが、エンドルフィンが多く分泌すればするほど痛みの訴えは小さくなる傾向がある、エンドルフィンの量と訴える痛みのレベルは負の相関関係があると報告しています。

音楽との研究ではA.Goldsteinが88名の大学生について調査して、音楽を聴くと幸せな気分になると報告しています。

今回の研究ではボディソニックを使って音楽を聴く前と後では、痛みに対しての許容値が上がったことが報告されました。

痛みは呼吸や脈拍、血圧などの自律神経系や内分泌系にも影響します。しかし、自律神経系や内分泌系の反応からその人がどれほど痛いのかを知ることはできません。脳内麻薬の異名をもつエンドルフィンに関しても、痛みのコントロールにどのように関係しているか、そのメカニズムは解明されていません。

内因性疼痛抑制物質には酵素が関係していると言われています。鍼治療などでも酵素を投与すると痛みを抑える効果が増大すると言われています。これらの内因性疼痛抑制物質や酵素は体内でどのようにつくられ、どのようなはたらきをするのか、多くが謎に満ちています。

人の体内にもともとある「鎮痛システム」の研究はまだまだ課題が残されています。しかし、ボディソニックを使って音楽を聴くことで、慢性的に痛みがある人や心因性の痛みを抱えている人、また癌による痛みと戦っている人の、ストレスや痛みを和らげることができると言えます。

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